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お問い合わせ・よくある質問

シルクスクリーン版画の制作工程

Q. 「シルクスクリーン」って、いったいどんなふうに作るのですか?

A. 制作工程の一部を、写真を交えてご案内いたします。


はじめに

絵画(版画)芸術の世界でよく耳にする「シルクスクリーン」という言葉ですが、「版画」と言うと「木版画」(木の板を彫刻刀で彫り、インクを塗って紙に転写する版画)を想像する方が多く、「シルクスクリーン版画」について、その制作方法をご存知の方は少ないのではないでしょうか。

そこで、笹倉鉄平の作品「手作り篭の店」の版画制作に携わって下さった版画工房「渥美セリグラフィ」さんのご協力を得て、その制作工程を簡単にご案内させていただきます。

実際の工程はかなり細分化され、しかも複雑な為、その全てをご紹介することができませんが、その大まかな流れをご理解いただければ幸いです。

シルクスクリーン版画制作の大まかな流れ

分色 ⇒ 調色 ⇒ 製版 ⇒ 摺り

笹倉鉄平が描いた「原画」はもちろん一つしかありません。
版画を制作することは、一つのものを複数にするということなのですが、画家が絵に込めた情熱や描写を、いかに摺り込むかということです。
絵の原作者が納得するような版画作品に仕上がる様、長期にわたり複雑な工程を要し制作されます。

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< 分色①:トレース >

原画をもとに、色調の微妙に異なる部分を見極め、その境界線を専用のフィルム上に線として引いていきます。


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写真はトレースしたフィルムの「犬」周辺の拡大写真です。
「犬」自体も多くの領域に分色されていることがわかります。


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渥美氏のノートです。
領域、色数、色種、色の重ね方から、摺って行く「版」の順番等で、顔料の付着による紙の伸縮をも計算にいれた設計図のようなもの。
これを見ただけでも、その工程が尋常ではないことがわかります。


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< 分色②:各色の名前付け >

トレースした各領域がどのような色で描かれているかを分析し、それぞれの色に、細かく独自の名前をつけていきます。


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「犬」周辺の拡大写真です。
この「犬」の部分だけでも数多くの色数が使用されます。
黒のマジックで細かく書かれた記号は、それぞれの領域の色名です。


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< 分色③:ポジフィルムの作成 >

境界線でくぎられた部分が無数にある中で、同じ色調の部分を拾い出し、同じフィルムに書き込んで(塗りつぶして)いきます。
(写真:トレース作業に没頭する、渥美氏)


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使用する色の数だけ、ポジフィルムを作成します。


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実際に作成され使用されたポジフィルムの1枚です。


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こちらも実際に作成され使用されたポジフィルムの1枚の写真です。
使用する色の数だけポジフィルムを作成しますが、この「手作り篭の店」では170色を越える色に分色されており、「分色」というここまでの作業で、約5ヶ月を要しています。


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< 調色:使用する色の作成 >

既存の顔料を調合し、必要な色を全て作ります。


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色を調合しながら実際に顔料を「版」に透過させてみる等し、必要な色に仕上げてゆきます。
(写真:インクの色を調整する渥美氏)


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作成した色の顔料に、名札をつけて保管しておきます。
「手作り篭の店」の調色作業は、約1週間を要しています。
その間に作られた色は170種を越えます。


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< 製 版 >

あらかじめ調合しておいた感光乳剤(紫外線を照射すると凝固する液体)を、暗室の中で「版」に均等に塗り、乾燥させます。
(※「版」は金属枠に化学繊維をピンと張った状態のもの。)
かつて、この「版」に絹(シルク)が用いられていたので、この版画技法を「シルクスクリーン」と呼ぶようになったのです。


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感光乳剤が付着した「版」を紫外線照射機の下にセットします。


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「版」の上に、分色の際に制作したポジフィルムを程よくセットします。


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ガラス板を置いて、「版」とポジフィルムを密着させます。


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紫外線光で数分間、焼き付けます。
この時、紫外線光の当たらない部分(ポジフィルムの塗りつぶした部分)の感光乳液は固まらず、紫外線光の当たる部分(他の多くの領域)の感光乳液が固まります。


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「版」を洗い流すと、感光せずに固まらなかった感光乳剤だけが、洗い流されます。


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更にジェット水流で細部に付着した、乳剤を洗い流します。
「版」の上に、フィルム上で塗りつぶした部分と同じ形の「孔」が現れます。
(「版」のこの部分が顔料を通し、紙に色が着く部分になります。)


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同じように、使用する版の数だけ「版」を制作します。
※「手作り篭の店」では134版を制作しています。
(170色を越える色のうち、同じ「版」上で摺れる色がある場合、同じ「版」に焼き付けをします。)


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< 摺 り >

制作した「版」を専用の台にしっかりと取り付けます。


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2種の色を同じ「版」で摺るため、色が混ざらないよう「版」の上に「仕切り」を作ります。


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保管してあった顔料から、摺り込む色を取り出し、なめらかさ等を微調整します。


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「版」の上に摺り込む色の顔料を流し込みます。


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「紙」と「版」がズレないよう、予め調整しておいた目印に紙をセットします。


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「版」を「紙」の上に密着させ、スキージと呼ばれる道具で顔料を摺り込みます。
この時「版」の顔料を通す部分(ポジフィルムで塗りつぶした領域)のみ、顔料が透過し、下にある「紙」の上に色が付着します。
(写真:摺り作業をする渥美氏)


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同じ「版」上の別の色を摺り込みます。


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「版」を「紙」から離すと、「紙」の意図した部分に色が摺り込まれています。



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色がのった「紙」を専用の台に載せ乾燥させ、この作業を版画の制作枚数ぶん繰り返します。
「紙」にのった顔料が完全に乾いたら、次の版(色)の「摺り」作業に入り、完成まで、この「摺り」を繰り返します。
「手作り篭の店」では「摺り」作業に2ヶ月以上を要しています。


「シルクスクリーン版画」制作の流れを簡単にご覧いただきましたが、実際の工程はこのように簡単に説明できるものではなく、原作者(笹倉鉄平)との綿密な打ち合わせを含め、その労力、手間、時間、コスト等は想像を絶する程です。
あらゆる面で機械化、簡略化が進む昨今、版画制作の全工程を手作業で行なう「渥美セリグラフィ」さんは、まさに「手作り篭の店」に込められた笹倉鉄平の思いを、版画の中に摺り込んでいったに相違ありません。

     「手作り篭の店」  制作期間 : 約8か月
                版 数  : 134版
                色 数  : 170色超
               摺り度数 : 400超

最後に渥美氏の言葉を記させていただきます。

―― シルクスクリーン制作にあたって ――

原画から版画を起こすということは、ひとつしか存在しないものを複数にするという行為であり、原画に描かれている具体的なタッチは勿論、流れている空気、あふれる魅力を緻密に色彩分解していくことです。
それは、一版、一色を摺り重ね、最終的に原作者であるアーティストの納得を得られる品質に行き着くように、色分解作業を行なうことでもあります。

その為に作業中一貫して念頭に置くことは、原作者のプライド、情熱であります。
原画と何ヶ月も向かい合いながら、次々生じる問題点を解消する対処法を模索し続けます。
それは、つまり原画と仲良くなり会話がができる様になることです。
小さなエリアごとに、タッチ、発色など、何処を大切にしてほしいのかを問いかけ、その要求に応えるべく、持っているノウハウの中から、最適の「ひらめき」を導き出し、実際の作業に反映させていきます。

とにかく、自分自身に対して妥協は許さないという緊張感を維持し続けることが最も大切であると考えています。

「渥美セリグラフィー」プリンター / 渥美 博

vannerie.jpg手作り篭の店